人間はなぜ地獄しか作れなかったのか。 おれはつねづねそう疑問に思って生きている。この世界で幸せに生きている人間など誰一人いない。まったくいない。人間が自分の手で作り出した地獄の中を苦しみ、もがき、絶望しながら息を吸ったり吐いたりしている。自分で息を吸ったり吐いたりするのをやめてしまう人間もいるほどだ。 偉大なる詩人である田村隆一はこう言った。「巨大なものはすべて悪である」。人間が作り上げてしまった巨大な組織、それは国家であり、企業であり、社会と呼ばれる総体。それとも、物理的に巨大なビル。なにもかもが悪で、悪に取り込まれて塗炭の苦しみの中にあるあらゆる人間が「後悔なんて時間の無駄だ、飲んで忘れろ!」と言いながら、ガンバルマンを飲んで記憶を飛ばしつづけている。この世には喜びも安楽もない。まったくない。本当にない。あるのは巨大なビルに入り込んだ巨大な組織で、それぞれの立場でそれぞれの人間は毎日の