自嘲気味に、自らを“イモ屋”と言う。 身長180センチをゆうに超える長身。ワックスで固めた髪を無造作に立て、黒のジーンズに皮ジャンを着こなした風貌は、どこかしらロックミュージシャンを思わせた。それが洒脱に見えるのは、生粋のハマッ子だからだろう。 だが、彼は焼きイモ屋だ。それも、ちょっとワケありの。 彼と知りあったのは、一年前のいまごろだった。 そのとき、彼は森野徹と名乗った。親しくしている同業者から一字ずつを拝借した偽名だとのことだ。ワケありだから本名は勘弁してくれと言って笑った。39歳。妻子はなし。自称ガールフレンドは多数。これは嘘ではないらしい。屋台をひくようになって、ちょうど四年目のシーズンを迎えた冬のことだった。 彼が屋台をひいていたのは、山下公園から横浜みなとみらいを中心とした一帯だった。皮ジャンという目だつ出で立ちで、荷台に焼き釜を載せた軽トラックのハンドルを握っていた。そして