著者: 森本あんり いま世界中で「不寛容」の嵐が吹き荒れています。人種や宗教にかかわる対立が激しい米欧諸国に比して、日本は「寛容」な社会にも見えますが、多様化が進む世界において、私たちは自らとまったく異なる倫理観や生活態度をもつ人々と共に生きる心の準備ができているでしょうか。『不寛容論:アメリカが生んだ「共存」の哲学』を刊行した森本あんりさんが、「TASC MONTHLY」(2021年1月号)に寄稿したコラムを転載します。 世界観の相克 『ある少年の告白』 という映画がある。2018年に公開されて大きな反響を呼んだ実話物語である。アメリカ南部の福音派キリスト教の中で育てられた少年が、同性愛者であることを自覚して両親に告白する。すると、牧師でもある父は、少年に「別人になれ」と、同性愛を「治療」する施設に彼を入れてしまうのである。原題の “Boy Erased” つまり「消された少年」は、この