ある機会で、予(よ)は下(しも)に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払(さきばら)いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。 第一の手紙 ――警察署長閣下(かっか)、 先ず何よりも先に、閣下は私(わたくし)の正気(しょうき)だと云う事を御信じ下さい。これ私があらゆる神聖なものに誓って、保証致します。ですから、どうか私の精神に異常がないと云う事を、御信じ下さい。さもないと、私がこの手紙を閣下に差上げる事が、全く無意味になる惧(おそれ)があるのでございます。そのくらいなら、私は何を苦しんで、こんな長い手紙を書きましょう。 閣下、私はこれを書く前に、ずいぶん躊躇(ちゅうちょ)致しました。何故(なにゆえ)かと申しますと、これを書く以上、私は私一家の秘密をも、閣下の前に暴露しなければならないからでござい