『涼宮ハルヒの驚愕』について、ファンの間では「待望の新刊が発売されたことをまず喜ぶべきで、批判するのは二の次だ」という風潮がある。 しかし、読んだ人の大部分は、この新刊に「物足りなさ」を感じたはずだ。 その理由を僕なりに分析してみよう。 (1)SFの魅力をいかせなかった展開 『涼宮ハルヒの驚愕』、そして、その前編である『涼宮ハルヒの分裂』では、αとβという異なる世界が並行して語られている。その試みは面白いと思う。 しかし、その並行世界の原因については、あまり納得できるものではなく、読者として大いに失望したものだ。 例えば、カート・ヴォネガットという米国作家の代表作に『スローターハウス5』というものがある。その作品では、宇宙人が出てきて、地球人と異なる時間概念が語られるという、奇妙奇天烈な内容ではあるが、同時に「人間がSFという物語を求める理由」を見事に描きだしている。 実は、『スローターハ