本音と建前 家族が帰宅した翌朝、洗面所へ向かおうと階下へ降りると、子供部屋からリビングに向かおうとする娘と鉢合わせた。 娘『オハヨウ』 私『おはよ……』 私のあいさつを聞くまでもなく、娘は顔を蝋人形の如く硬直させ、口元を歪ませて笑顔を作る。そして“ふつう”を装う時や、“ふつうにすること”を全ての動作に強制的に意識する時の、彼女独特な歩き方でリビングのドアに向かった。 バランスが傾き、左右の足の動きがチグハグ。手指の先にまで何らかの“そこにあるコツ”を探るような、普段無意識に身体が行ってくれる全ての動作を、頭で再分解していちいち点検しながら活動するようなぎごちなさ。 【そこにいること・立ち振る舞いを気にする】 今、娘は確実にここから入る生活へのスイッチを、非常に薄い自覚のままに入れた───。 娘が開けたドアの向こうに、その姉の様子を不思議そうに目で追う次男の姿があった。そして、その返す目は私