「お絵描き文化」の特異な発達を遂げた国、日本。「人は何のために絵を描くのか」、「人はなぜ描くことが好きに/嫌いになるのか」、「絵を描くとはどういうことなのか」――。さまざまな形で「絵を描く人々」と関わってきた著者が改めて見つめ直す、私たちと「お絵描き」の原点。 絵を描く人々 第6回 演出と詐術の世界にようこそ 「だまし絵」というジャンルがある。一見人の横顔、しかしよく見ると、各部位は全部リアルな野菜。17世紀のイタリアの画家、アルチンボルドの絵だ。浮世絵にも同様の、さまざまなポーズをとった人体で顔が構成されているユーモラスな騙し絵がある。 エッシャーの精密なイリュージョンの世界に魅了された人は多いだろう。ダリ、マグリットといった画家たちもだまし絵的な手法をよく使っている。トリックアートと言って、建物の壁面に本物そっくりの窓や扉を描く画家もいる。「本物みたいだけど全部嘘っぱちだよ」という見せ