古歌仙紅葉集 宝暦7(1710)年成立・享保9(1724)年写 伊藤伊兵衛政武著 初夏の新緑も、秋の紅葉も美しいカエデ。本書は、そんなカエデに魅せられた江戸時代の園芸家があらわした、カエデの彩色図譜です。 著者の伊藤政武は、江戸で一番大きな植木屋の当主・五代目「染井伊兵衛」。自ら品種改良して育成した新種のカエデ36種について、葉の形を彩色画で示し、品種の特徴の解説を載せました。それだけならありふれた植物図譜ですが、染井伊兵衛はさらに、『古今集』や『千載和歌集』などの中からカエデを詠んだ古い和歌を選んで品種ごとに添え、その歌にちなんだ銘を、新たな品種の名前としてつけたのです。 「笠取山」 たとえば右側の、青葉のカエデ。「この品種は丸葉でかわいらしいのが特徴。葉にやや厚みがあるので、時雨に打たれないと紅葉しない」、との解説のあとに『古今和歌集』巻の五に収載の壬生忠峯の歌、「雨ふれば笠取山のもみ