日本で放射線の話をするときには、東北大震災にともなう福島第一原子力発電所事故について避けて通ることはできません。あの事故直後には、放射線に関する言説が、デマも含め、とてもたくさん出されました。いまさら放射線について書くくらいなら、なぜ、そのときに書かなかったのか、と思われる人もいるかもしれません。あのころ僕はちょうど生まれて初めての本を出そうとしていた時期であり、それを自分の勤務先の研究施設の震災復旧のため、連日倒れそうなくらいの激務の合間にやっていたために、ほかの本を出すような無謀なことはできなかった、というのが実情です。復旧が終わり、時間に余裕が出てくると、完全に時機を逸してしまっていました。 ではなぜいまさら書く気になったのかと言いますと、きっかけは豊洲市場問題です。あそこで繰り広げられた「安全より安心」とかいう無意味な話や、それを煽るマスコミ、間違った風評で相手を傷つけても自分のち