「うたかた」という美しい言葉が日本語にある。『広辞苑』によると、「はかなく消えやすいことのたとえにつかう」とある。多くは、不老不死が叶わぬ人間の短い命に重ねて使われるが、近代科学の結晶とも言えるクスリにも、実は当てはまる。夢の特効薬と期待されて登場しながら、予期せぬ副作用などで市場からの退場をたちまち迫られた薬剤は枚挙に暇がない。今年の春、俄かに人口に膾炙した「アビガン」も、以降の形跡を辿る限り、うたかたのクスリで終わりそうな気配が強まっている。 「風邪薬ががんに効くかもしれない」既存薬転用への方程式 新型コロナウイルスが引き起こす同ウイルス感染症の拡大が、国内外で一向に止まらない。特に国内の状況は、社会や経済への影響を最小限にしながら、感染拡大防止の効果を結果として最大化した「日本モデル」の勝利と胸を張ったのも束の間。わずかに都内に残っていた“燃えさし”から、再び全国へ伝播していく展開と