読書というのは孤独な営みであり、孤独な愉しみである。そんな読書観は実は新しいものだ。欧州では読書は黙読ではなく音読が主流であり、近世には読書グループが次々と形成されて、それがブルジョワ階級の勃興と対をなしていた。日本ではどうか?江戸時代、漢詩人江村北海(1713-88)は欧州と同じく音読と黙読どちらがいいか、という問いに続けて、「書ヲヨムニ、我独リ読ムガヨキカ、人ト共ニヨミテ、世ニイフ会読スルガヨキヤト問人アリ」と書いているという。 江戸時代、読書の主流となっていたのは「会読」と呼ばれる『定期的に集まって、複数の参加者があらかじめ決めておいた一冊のテキストを、討論しながら読み合う共同読書の方法』(P12)であった。その会読はどのように始まり、どのように廃れていったのか、また会読が与えた影響の大きさについて、近世思想史を概観しつつ、江戸の儒学・蘭学・国学から幕末の思想家たち、明治の自由民権運