3年前の夏、私は実家に帰った。お仏壇のある部屋には、認知症の祖母が寝たきりの状態でいた。 その以前から遅々として認知症の症状が進んでいたが、その頃には私と弟の区別がまるで付かない状態でいた。 「誰かね。(弟)かね」「(私)だよ」 あれほど大好きな祖母が、私の事が分からないのが不思議だった。 「そうかね。(私)はオートバイで死んだよ」「ふふふ、おばあちゃん、違うよ。(私)はまだ死んでないよ」 その時、ふと目が覚めたように、祖母は私に気付いたようだった。 「ああ、(私)かね。(私)はいつからそこにいたのかね」「さっきからずっとここにいたよ」「元気かね。今、何をしてるのかね」「東京で仕事をしているよ」「ああ、東京でなんてね。大変だ、大変だあ」 私は、一瞬だけ元に戻った祖母の声を聞いて、涙を流した。声色を正すのに、精一杯だった。その後、意識が混濁した祖母は、弟の名前を叫んでいた。認知症の人は、いく