タイトルは「イスラーム哲学の原像」ではあるが、実際には十三世紀に勃興しはじめた、イスラーム神秘主義哲学(イスファーン)、しかもイブン・アラビーという一人の思想家に焦点を当て、その思想の内でも「存在一性論」に特化して論じている。とはいえ、広大なイスラム神秘思想への入門としては、最適な一冊であろう。 多分にもれずイスラーム思想史においても、いわゆる哲学と神秘主義は、まったく別の道をたどって発展してきたが、十二世紀から十三世紀にかけて統合されはじめる。その際に重要な役割を果たした二人の思想家が、スフラワルディー、もう一人が、イブン・アラビーである。 イスラームに限らず、一般に神秘主義は、経験世界を超えるために、経験的自我を、その理性的側面を含めて排除して、真実在と一致した神的我に到達する。いうまでもなくそれは理性を超えた境地であるから、そこにとどまる限り、哲学と接触する何物もない。実際、それを表