2012年10月6日のブックマーク (1件)

  • 円城塔『みどるさん家にくる』 - 中間小説集:Open Middleware Report Web:日立

    雨も上がって、妹が黄色い長を鳴らしながら帰ってくる。ちいさな拳を無言で突き出し、得意げな笑みを浮かべてゆっくりひらく。手のひらに硝子細工のように潤う何かが現れて、妹の鼻息に触れ寒天のようにふよふよ震える。 「みどるさん」と妹は言い、「そうだね」と兄は応える。「捨ててきなさい」と続いた兄の言葉に、妹は口をヘの字に曲げる。「元いたところに返してきなさい」 「いや」と応える妹の緊張が伝わったのか、みどるさんは「ト」の字の形に身を固くする。 みどるさんは、「と」の字に似ている。それとも「ス」。あるいは「う」みたいな形をしている。体をよじり「γ 」みたいになることもある。妹の小指ほどの大きさしかない芋虫みたいな胴体に、小さな羽がついている。「と」の字でいうと、一画目の筆が羽である。 みどるさんは、"オペレーティングシステムとアプリケーションの間"に住んでいる。だから「と」みたいな形をしている。実際

    poponcar
    poponcar 2012/10/06