以下の文章は4月27日付琉球新報に掲載されたものです。 大江・岩波沖縄戦裁判の傍聴を重ねて印象に残った場面がいくつかある。中でも忘れられないのが、2007年11月9日に行われた原告・梅澤裕氏の本人尋問の一場面である。大江・岩波側代理人の近藤卓史弁護士が〈『沖縄ノート』を読んだのはいつか?〉と尋ねた。梅澤氏は〈去年読んだ〉と答えた。 一瞬、呆気にとられたような雰囲気が法廷 内に流れた。『沖縄ノート』の記述が名誉を毀損しているとして、梅澤氏らが大江氏と岩波書店を訴えたのが2005年の8月。その時点で『沖縄ノート』を読んでいなかったことが明らかになったのだった。 『沖縄ノート』が世に出たのは1970年9月である。出版されてから35年もたち、しかも読んだこともない本を訴える。原告・梅澤氏のこの奇妙な行動は、大江・岩波沖縄戦裁判が、ある政治的たくらみを持って起こされたものだということを表していた。