著: 前田紀至子 不意に「横浜に“帰りたい”」と、口を衝いて出ることがある。 もっとも、私の生まれ故郷は和歌山だし、親戚がいるわけでもない。 横浜を居住地にしたのは大学に入学してから27歳までの10年弱。それでも私は横浜に並々ならぬ思い入れがあるし、今だって仕事や他諸々の都合がついてどこにでも好きなところに住めるとしたら、迷わず横浜を希望するだろう。 当時私が住んでいたのは横浜市中区。最寄駅で言えば馬車道駅。赤レンガ倉庫や横浜ワールドポーターズからも最寄りの駅だ。 そんな場所だけに、「馬車道に住んでいる」と言うたび、当たり前のように「住むところ、あるの?」と聞かれていた。 意外と住むところがある(後になって知るが、東京に出て来てから出会った気の合う上司もまた、同じ時期に目と鼻の先に住んでいたらしい)馬車道は、横浜の「横浜らしさ」を存分に体感しながら、自由気ままに暮らすには最高の場所だったよ