『ウミガメを砕く』(久栖博季 著)新潮社 北海道を舞台にした小説は多くあるが、久栖博季さんのはじめての著書となる『ウミガメを砕く』はまったく新しい読み味を残す作品だ。現代の北海道の内側から紡がれる物語には、アイヌや少数民族をルーツに持つ者たちのアイデンティティの揺らぎが浮かび上がる。久栖さんは北海道に生まれ、現在も道東に住んで執筆をしている。 「ただ、北海道にずっと住んでいたらこういう小説を書くことはなかったんじゃないかな。大学のときに北海道を出たことが私の中で大きかったんです。北海道を外側から見ることで、『この土地はどういう場所なのだろう』という問いが生まれました。私の先祖はおそらく入植した和人で、移民の末裔であるという意識は以前から持っていました。私が出会った青森の人たちはとても自然に自分たちの土地を故郷と認識していて、そのことがすごく不思議に思えたんです。私は彼らと同じように、素直に