近年のファッション業界では、性別の枠にとらわれない「ジェンダーレス」や、自然環境や社会に配慮した「サステナブル」がトレンドになっている。ファッションは単なる衣服にとどまらず、その背後には時代の思想がある。大仰にいえば、服を選んで着る行為は、自らの世界観の表明なのだ。 1960年代、20世紀最大のファッション革命と呼ばれるミニスカートが登場した。野際陽子は、そのミニスカートを日本人で初めてはいた女性である。彼女はどのようにしてミニスカートに出会ったのだろうか。 パリのエトランゼ1966年2月、野際は一人パリに降り立った。白い石造りの建物が立ち並び、セーヌ河が街の中心をゆったりと流れている。噴水のそばでは、若い学生たちが語りあっていた。野際は先月30歳になったばかりで、女優業もテレビのレギュラー番組も中断し、留学生としてパリにやって来たのだ。 20代の彼女はパリでの一人暮らしをずっと夢見てきた