「真相」は、忘れたころに、語られる。 世界を揺るがした暗殺事件の謎に切り込む映画「わたしは金正男を殺してない」が、今年10月から日本各地の映画館で公開された。初めて公になる音声記録や文書を詰め込んだ本作の魅力は、その資料的な価値の高さだけにとどまらない。映像を見れば見るほど、実行犯に仕立てられた女性2人の転落劇が、他人事とは思えなくなってくるのだ。 事件は2017年2月13日午前9時前、マレーシアのクアラルンプール国際空港で起きた。 出発ホールを歩く金正男の顔に、女性2人が猛毒VX入りの液体を塗りつけた。金正男は救命処置を受けたが、激しくけいれんして2時間後に死亡。地元警察は監視カメラの分析などから数日後に女性2人を逮捕したが、指示役の北朝鮮工作員たちは既に出国済みで逮捕できなかった。 本作の撮影チームは、罪をかぶることになった女性2人の裁判に焦点を当て、記録を掘り起こしていった。