「やっと、終わった。」 奨学金の返済が終わると送られてくる「奨学金返還完了のお知らせ」を見つめながら、私は大きく息を吐き出した。約3年にわたる奨学金の返済生活が終わり、胸の奥にあった重い荷物がゆっくりと消えていくような気がした。 この瞬間、ふと頭に浮かんだのは、あの頃諦めたピアノの音だった。 お金の問題で諦めたピアノを、今ならもう一度挑戦できるかもしれない。そんな思いが心の中で静かに広がっていった。 子どもの頃、親に否定され諦めたピアノ私がピアノを始めたのは小学3年生のとき。同じクラスの子がかっこ良くピアノを弾く姿が印象的で、憧れたことがきっかけだった。 私は5歳からエレクトーンを習っていたから、楽譜を見て「ピアノを弾くこと」はできた。ただ、その子のような技術力や表現力はなかったので「かっこ良くピアノを弾くこと」はできなかった。 ピアノをもっと専門的に習いたくて、母にピアノの個別レッスンを