精神医学者中井久夫の「分裂病と人類」を読んでいたら、人類の歴史で時間観念が登場したのは、農耕文化の段階になってからだという記述にぶつかった。中井は、人類の歴史は狩猟採集の段階から農耕の段階に進んでいったと考えているのだが、狩猟採集の段階では、時間の観念はまだ成立していなかった、時間の観念が成立するのは農耕文化の段階以降のことだと言うのである。 もっとも中井は、狩猟採集段階の人類に、時間概念が全面的に欠落していたとは言っていない。欠落していたのは、われわれ現代人が当然のこととして理解しているような意味での時間概念である。それを中井は、クロノスとしての時間だといっている。クロノスとは、現在を中心にして、過去から未来へと直線的に流れていく時の流れのことをいう。それに対して、現在という瞬間にこだわった時間意識もないわけではない。それは、現在を中心にして、未来には開かれている。しかし、過去を含んでい