源氏は御所にいた時で、 帝《みかど》にこのことを申し上げた。 「得意なのだね」 帝はお笑いになって、 「使いまでもよこしたのだから行ってやるがいい。 孫の内親王たちのために 将来兄として力になってもらいたいと 願っている大臣の家《うち》だから」 など仰せられた。 ことに美しく装って、 ずっと日が暮れてから待たれて源氏は行った。 桜の色の支那錦《しなにしき》の直衣《のうし》、 赤紫の下襲《したがさね》の裾《すそ》を長く引いて、 ほかの人は皆 正装の袍《ほう》を着て出ている席へ、 艶《えん》な宮様姿をした源氏が、 多数の人に敬意を表されながらはいって行った。 桜の花の美がこの時にわかに減じてしまったように思われた。 音楽の遊びも済んでから、 夜が少しふけた時分である。 源氏は酒の酔いに悩むふうをしながらそっと席を立った。 中央の寝殿《しんでん》に女一《にょいち》の宮《みや》、 女三の宮が住んで