実定の身内のもので、 この京に残っているものは近衛河原の大宮ただ一人、 荒野をさまようにも似た心地の実定は大宮を訪れた。 従者が大門を叩く。 「どなた、蓬の露を払ってまで訪れる人もないのに」 とは女の声、あとは一人呟くともとれぬ声である。 「福原から大将殿がお見えでございます」 「まことでございましょうか、大門には錠がかかっております。 東の小門からお入り下さりませ」 東の小門から内に入った大将は、 南面の格子を開き琵琶を弾いている大宮を認めた。 寂しさのあまり、こうして一人昔のことを偲んでいたのであろうか。 すっと室に入った大将に大宮は夢とばかりに喜んだ。 この席に、大宮に仕えている待宵《まつよい》の侍従がよばれた。 彼女はある時御所で、 「恋人を待つ宵、帰える朝、いずれが哀れまさろうか」 との問に、 『まつよいの更けゆく鐘の声きけば かえるあしたの鶏《とり》はものかは』 と詠み、待つ宵