二つの世界に挟まれた「亡霊」 100年前に降霊会がおこなわれた部屋で、私は佇んでいた。建物には電気が通っておらず、窓の鎧戸も閉ざされている。 雨降る10月の夕暮れ時、薄明かりのなかでも、剥がれかけた緑の壁紙や、天井から崩れ落ちつつある装飾が見えた。四方の壁には空っぽの棚が並び、整然と貼られたラベルだけが、かつての収蔵品を偲ばせている。 書斎には他に何もない。窓際の隅は、床板の色が周囲より少し明るくなっている。そこにかつて机が置かれていたのだろう。 100年前、その机に向かって座る少女の周りに、不安げな見物人たちが集まっていた。彼女は死者と交信する力を持つという霊媒師だ。 その夜、少女は特別な任務を担っていた。フランス屈指の著名な天文学者で、熱心なオカルト研究者でもあった、カミーユ・フラマリオンの霊との交信である。生涯をかけて幽霊の真相を探し求めたフラマリオンはいまや、人々が求める霊となって