哲学者ハイデガーにおける歴史と真実 ――ビクトル・ファリアス「ハイデガーとナチズム」※を読む (※名古屋大学出版 1990年 原著Victor Farias:Heidegger y el nazismo 1987) <野上俊明(のがみとしあき):ちきゅう座会員・哲学研究> チリー人であるV・ファリアスが著したこの書は、晩年の丸山真男が「1990年の読書界でまず第一に特筆すべきこと」として注目したものだったそうです。この書のあと、2014年に「黒いノート」Scwarze Hefteと呼ばれる、ハイデガーが四十年にわたって密かに書き綴った1200ページに及ぶ覚書が初めて刊行され、世界中の哲学関係者に議論の嵐を巻き起こしました。ただノートには反ユダヤ主義と思しき言辞が散見されるものの、しかし如何せん抽象的な哲学用語で認められているので、果たしてその反ユダヤ主義的態度がハイデガー哲学の深部の思想性