個人的「山野井泰史」史 この解説は難しい。私も登山家などと呼ばれているが、山野井泰史とは登山家としての器に差がありすぎて、解説の執筆は自分の小ささを強調することになりかねない。ただ、通り一辺倒のことを書いてお茶をにごすなら、私が書く必要はない。個人的なことになるが少し付き合っていただきたい。 我々の世代で登山を志す者にとって山野井泰史は本物のスーパースターだった。 もちろん私も憧れた。大学で山登りを始め、その世界に魅せられて、山野井泰史のようになりたいと思っていた。だが、人生のすべてを捧げるほど、登山や自分の才能を、信じることはできなかった。大学卒業と同時に就職して「まともな社会人になる」というのは、日本の教育が長年かけて強固にすり込む世界観の1つである。学歴社会全盛期の受験戦争をかろうじて生き残ってきた大学生の私にとって、その世界観を否定するのは難しかった。そして、卒業の見込みが立った年
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