溢れ出る狂気と家族の絶縁。もっというと、なによりファナティックな両親からの黙殺。そんなことを巧みにカモフラージュしながら書く作家。それが今村夏子だと思っていた。軽くコンタクトする傍観者、ときには今村夏子自身が介入することで希望の方向を提示するが、本質的な救いは書かれない。『あひる』(書肆侃侃房)と、併録された「おばあちゃんの家」「森の兄妹」でもそのフォーマットは踏襲されている……。 と、思っていたが、今回は位相が大きく変わった。確かに、いずれの物語も終盤までの進行は酷い。親たちのデタッチメントは、異常さを通り越して恐怖ですらある。あらかじめ壊れている家族の形。これをを寸前のところで止めるのは、そもそものデモリションマンたちである。彼岸から帰ってきた彼らーー『あひる』では弟、他2篇では、なんと母親!ーーが、子どもたちの心を此岸に引き戻す。とりわけ「森の兄妹」で示されるのは、親の愛のなかでも至