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そんな時高には悩みがあった。 それは子がないことであった。 がんばっていないわけではなかった。あちこちで手を変え品を変え血のにじむような努力を重ねていた。 「ダメだこりゃ」 時高はあきらめた。 主家筋の関東管領家・扇谷上杉家の上杉高救(たかひら)の子を養子に迎えた。 これが三浦義同(よしあつ。後の道寸)である。 義同は偉丈夫で勇敢な武将に成長した。 時高は満足した。 ところが、信じられないことが起こった。 時高に実子が生まれちまったのである。 これが三浦高教(たかのり)である。 「もっと早く生まれてくれよ~」 時高は嘆いた。 高教はかわいかった。 愛想のない義同の顔を見た後は、特にいとおしく感じられた。 (別に早く生まれなくてもいいじゃないか) 時高は高教に跡を継がせたいと思うようになった。 (何か問題でも?) その思いは、日を重ねるごとに増していった。 ある日、時高は義同を狩りに誘った。
また二十年ほどが過ぎた。 元明天皇の御世、平城京遷都間もない頃である。 千代の母は死に、ダンナαも老いてきた。 夫婦で出かけると、前は人から、 「きれいな奥さんですねー」 と、言われたものだが、そのうちに、 「かわいい娘さんですねー」 と、勘違いされるようになり、今では、 「かわいいお孫さんですねー」 と、勘違いされるようになってしまった。 ダンナαはおもしろくなった。 千代に、 「一緒にどっか行こ」 と、誘われても、断るようになった。 「いやだ。おまえと歩くと絶対に夫婦に見られないから」 「人がどう思うといいじゃない」 「おまえはいいかもしれないけど、おれがイヤなんだよー!」 ダンナαはムッとした。機嫌が悪くなった。ブリブリ怒り出した。 「だいだいおかしーじゃねーか!なんでおまえだけ年取らないんだ!なんで息子や娘より年下に見えるんだ!ふざけるのもいい加減にしろーっ!」 「ふざけてなんかな
高橋権太夫の娘は千代(ちよ)といった。 誕生年は不明だが、一説に白雉五年(654)という。 千代は父が帰ってきたことはうれしかったが、気になることがあった。 (あれはなんだったんだろう?) 例の包みのことであった。 『なにこれ?』 あのとき彼女が拾い上げたとき、それはムニョッとやわらかかった。今までに触れたことのない、不思議な未知の感触であった。 『なんでもない』 権太夫がすぐにしまったことも気になった。 それを邸宅のどこかに隠してしまったことも気になった。 (ワリアリなんだ……) 千代は権太夫の留守中にそれを探した。 邸内中をくまなく探してみた。 果たしてそれは床下にあった。 千代は包みを拾い上げた。 むにょ! 忘れられないあの感触であった。 「うふふ!」 千代は包みを広げてみた。 中には白くて透き通るような、ぷにゅぷにゅしたモノが入っていた。 「何だろう?お肉みたいだけど……」 千代は
平成二十年(2008)四月、老人保険制度が廃止され、後期高齢者(長寿)医療制度が発足、有無を言わさぬ保険料の天引きが始まった。 「ああっ!年金が減っておるー!」 「年寄りイジメじゃー!」 「わしらに死ねというのかーっ!」 私はこの制度の方針は間違っていないと思う。 高齢者の医療費をタダにしたり、若者より安くしたりすることは、高齢者が増えれば増えるほど財源が減るということである。 すると、若者はこう考えるようになる。 「ジジイババアが長生きすると、その分おれたちの生活は苦しくなるんだ。ジジイババアは早く死ね!」 すでに高齢者軽視の風潮があるではないか。高齢者の割合が増えれば、こういった傾向はより強いものになっていくであろう。これを防ぐためには「早死にすればするほど財源が増える制度」ではなく「長生きすればするほど財源が増える制度」に改めればいいわけである。 そうすれば、若者は考え直すようになる
時の松山藩主は、七代藩主(久松松平家としては五代目)松平定英(まつだいらさだひで。「松平氏系図」参照)。 定英は、藩の勘定奉行(かんじょうぶぎょう。財政担当者)を呼びつけて聞いた。 「飢饉は深刻だそうだな。今年の収穫高はどれほどある?」 享保十八年当時の松山藩は表高十四万石。実際には毎年十二万石あまりの収穫があった。 「皆無です」 「カイムとは?」 「つまり、無収入です」 勘定奉行の返答に、定英は絶句した。 「え……? ウッソ~! つまらぬ冗談はよせ。いくら凶作でも、五、六万石ぐらいはあるであろう」 「いいえ。領内の稲という稲は、イナゴやウンカどもが完食いたしました。ごっつぁんです」 「バカな!十万石以上の大大名が無収入なんて、ありえねー!」 「御安心ください。こんなときのために城内には備蓄米がございます」 「ホッ。それで今年はしのげるのだな?」 「ええ。殿や我々はなんとか」 「ならよい」
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