三日後、四年間信濃守を務めて大富豪になった藤原陳忠は、任期を終えて都に帰ることになった。天元五年(982)から寛和二年(986)頃の話である。 目代の麻手麻呂が頭を低くして言った。 「受領さま。四年間お世話になりましたが、今日でお別れです。国境まで送って差し上げますよ」 陳忠は止めなかった。 「うん、御苦労。だが、最初に言っておくが、褒美は何も出ぬぞ。ビタ一文出ぬぞ」 麻手麻呂は笑った。 「承知しております。受領さまの御性格はこの四年間で知り尽くしておりますから~」 「そうか」 陳忠は馬に乗った。 そして、秘宝大行列とともに、都へ向けて出発した。 麻手麻呂も遅れまじとすぐ後に続いた。 同志の熱田麻呂はいなかった。彼はある場所で先回りしているのである。 一行は信濃と美濃の国境・御坂峠(みさかとうげ。神坂峠。長野県阿智村~岐阜県中津川市)に差し掛かった。 古代の官道東山道の要衝で、峠の入口に神
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く