針先と指先 大谷能生『貧しい音楽』 北里義之『サウンド・アナトミア』 十代の学生たちに、今は使われていない昔の生活用品について聞き取りをしなさい、という課題を出したら、お祖母さんに話を聞いた、という学生からこんなレポートが返ってきた。 「音楽についてですが、LPレコードが主流だったそうです。針をのせるとレコードが回って音が出るそうです。」 この無垢な文だけでも十分衝撃だったが、さらに、とどめのひとことが添えられていた。 「裏面もあったそうです。」 十代の学生にとっては、二十世紀を席巻したテクノロジーも、遠い過去の遺物らしい。 もはや、レコードということば自体を一から説明する時代が来たのだろうか。いや、「東京人」の読者なら、「A面」から「B面」へと音盤を裏返した経験があるに違いないと信じて、今月はレコードの針先を論じる本の紹介から始めよう。 音楽活動を行う一方で、ジャズ、電子音楽史に関する数