「船舶差押え事件は異常ではない―中国における法治の現状」 小口 彦太/早稲田大学法学学術院教授・アジア研究機構長 世上関心を集めている商船三井差押え事件の概要は以下のようなものである。原告は中威輪船公司(以下X1)、民間人の陳震(X2)、陳春(X3)の三者で、X2、X3はX1会社のオーナーの孫である。商船三井(Y)は被告であった日本海運株式会社を吸収したことで被告となった。原告の主張は、日本海運株式会社の前身の大同海運株式会社(A)がX1から1936年6月と10月に2艘の船舶(甲、乙)を期間1年で賃借する契約を締結したが、「1937年8月以後、賃料を支払っておらず、また契約で取り決めた船舶返還の時期以後も甲乙を占有し続け、その結果甲乙の沈没を招いた。Aは補償費及びその他のいかなる費用も支払っていない」というもので、原告は、「1、甲乙の船舶の賃料及び船舶の占有使用料相当額、2、1での遅延利息