哲学的な何かを書くときに最も重要なことのひとつは《自分が何を引き受けて書いているか》に自覚的であることだ。ただ書くだけでは、自分が書かなくてもよかったような「顔の無い」文章ができあがる。言葉へ自分の表情を与え、それを「自分の声」とするには、自分が何者なのかに向き合う必要がある。――以下では、15年以上非常勤講師を続けてきた者として、それがいったい何を帰結するのかを書こう。 はじめに明確に述べておけば私は自分が非常勤講師であることを恥じていない。常勤に採用されるかどうかは運次第であって、自分がコントロールできることの範囲を超えている。他方で私はこれまで、自分のコントロールの及ぶ範囲にかんして、精一杯やってきた。就職面以外の運に恵まれることもあり、自分の哲学を表現する本も出版している。振り返れば悪いことばかりではない。 その一方で非常勤という状態に問題がないわけではない。最大の問題はお金である