東日本大震災の被災地で、「幽霊」体験が伝えられるようになってから久しい。震災直後は、「幽霊」話を興味本位で拡散するなんて「不謹慎」だという雰囲気が漂っていた。しかし今では、この種の体験を取り上げた本が何冊か出ている。話題としては新しくない。もはや被災地の霊的体験は、物珍しげに読む対象ではない。それをより学問的に追究し、後世に引き継ぐフェイズに、私たちの社会は入っている。このような問題意識のもと、私が研究者仲間の高橋原とまとめたのが、『死者の力──津波被災地「霊的体験」の死生学』(岩波書店刊)である。 新型コロナウイルス感染症によって、日本では1万を超える人が亡くなっている。世界一の超高齢社会である日本は、これから数十年にわたって「多死社会」を経験する。大量に発生する死者をどのように包摂するのか。それをなしえないとき、私たちの社会はどうなるのか。そのヒントが、被災地の霊的体験から得られると、