日本以外に被爆地をつくる愚行を人間は犯さないはずだから、原爆被爆者は何十年か後には地上からいなくなる。そんな時代を生きる1人として、40年近く前から重たい録音機を抱えて全国を歩いてきた人がいる。▼東京在住の伊藤明彦さん(71)。長崎放送の記者として原爆問題にも携わった。入社10年で退社し、退職金で13キロもある録音機を購入した。38年前のことだ。被爆者の証言収録を一生の仕事にしようと決めた。▼肉体労働で衣食の費用を稼ぎながらの活動である。広島、長崎での体験を語れる人約2000人に取材を申し込み、1003人から詳しく話を聴くことができた。8年かかった。▼最初のころ東京で会った老婦人のことが忘れられない。「本来は私たちがするべきことを、若いあなたたちがしてくれている」。そう言ってバス代の足しにと千円札が入った封筒をくれたという。▼1003人分の収録テープは951巻に及ぶ。編集して全国の図書館や