でもさ、と私は田村の話を遮った。僕の文通相手はね、本当は存在していないんですよ。いや、あの写真の男……男か、女か、何と言ったらいいかわかんない、僕は男と言ってしまうけれども、あの人はもちろんどこかに実在しているけど、僕が文通をしていた相手は北海道まで探しに行っても、どこにもいない。成瀬文香なんて人はね。いや、それはどうでもいいことで、いやどうでもはよくないけど、そんなことを言いたいんじゃなくて、僕は成瀬文香を、死んだ人のように思い出すことがあるんですよ。 滝口悠生「高架線」 高架線 posted with ヨメレバ 滝口 悠生 講談社 2017-09-28 Amazonで見る Kindleで見る 詩情とは場である。 かつて詩人のオクタビオ・パスはそういったらしい。 らしい、といのは友だちから聞いて知ったからなのだけれども、この考え方には説得力があって、ぼく自身がそういうことを考えるうえでも