2013年春、私は悩んでいた。 ずっと好きだった出版社からの内定。狭い部屋中を駆け回るほどにはうれしかったが、すでに老舗アパレルメーカーへの入社が決まっていた。私なんかが出版社に受かるはずがないと思って、内定承諾書にサインをしてしまっていたのだった。 もともとはあきらめるつもりでエントリーした憧れの出版社。その憧れが現実になって立ち現れた時、喜び以上に恐怖が大きかった。自分のやりたいことで能力がないと思わされるのが怖かった。憧れにそっぽ向かれるのが怖かった。 私は出版社の内定を蹴るための、それらしい理由を必死でかき集め始めた。多忙すぎて病気になって辞めていく人が多いこと、その割に給料があまり高くないこと、もうすでにアパレルメーカーの内定承諾書にサインをしてしまっていること、その会社はホワイト企業だから余暇を使って好きなことができること、そのほうが両親が喜ぶだろうと思ったこと。どれもこれもが