小説家、烏山鳥一郎(からすやまとりいちろう)が今日二十枚目のクシャクシャ紙を背後に放り投げた時、ノックの音がした。振り向きざまに新しい原稿用紙をドアに投げつけると、専属編集の木暮くんが神妙かつ汗びっしょりで入ってきた。 木暮くんは部屋に入ってきたのにしばらくしゃべらなかった。その間、烏山はさらに二枚の原稿用紙を無駄にした。一枚の完成原稿をものにするために、KOKUYOが三百円ほど儲かっている。 「先生、先月『グングン象さん』で連載終了しました『提出・光線・愛』の単行本が明日発売になります」 「木暮くん、私は今執筆中だ。頼むから後にしておくれよ。別にかまわないが」 その柔和な笑顔を前にしても、緊張と僭越でリカコスマイルになってしまう木暮くん。今日は少しく様子がおかしい。彼がおずおず差し出した本は、哲学書のようなシンプルかっこいいデザインに帯もついて、もういつ発売してもいい状態っていうか明日発