松田厳作は京都府警本部捜査一課に所属する駆け出しの刑事だ。5年の地域課巡査を経て今回刑事に大抜擢された。刑事への昇進が決まった時、厳作は涙を流して喜んだ。 「やった、やっとおとっつぁんの敵がとれる」 厳作が小学生の時、父は死んだ。厳作が小学校から帰ると、リビング一杯に広がった血の上に父が横たわっていた。警察の捜査によると運悪く空き巣と蜂合わせてしまい犯人の持っていた果物ナイフで数カ所刺されその場で絶命したとのことだった。未だ犯人は捕まっていない。何度警察をせっついても返ってくる言葉はうんざりとした表情の「調査中です」の一点張りであった。高校3年生の時警察の捜査に見切りをつけ、自分が警察組織に入ることを決めた。この決心の理由は勿論自らの手で犯人を捕まえたいというのが一番だが、被害者に対して親身になってくれない警察組織への憤りもある。 刑事課に配属され3ヶ月経ち、厳作は底知れぬ悩みを抱えていた