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ブックマーク / www.aozora.gr.jp (2)

  • 寺田寅彦 天災と国防

    「非常時」というなんとなく不気味なしかしはっきりした意味のわかりにくい言葉がはやりだしたのはいつごろからであったか思い出せないが、ただ近来何かしら日全国土の安寧を脅かす黒雲のようなものが遠い水平線の向こう側からこっそりのぞいているらしいという、言わば取り止めのない悪夢のような不安の陰影が国民全体の意識の底層に揺曳(ようえい)していることは事実である。そうして、その不安の渦巻(うずまき)の回転する中心点はと言えばやはり近き将来に期待される国際的折衝の難関であることはもちろんである。 そういう不安をさらにあおり立てでもするように、ことしになってからいろいろの天変地異が踵(くびす)を次いでわが国土を襲い、そうしておびただしい人命と財産を奪ったように見える。あの恐ろしい函館(はこだて)の大火や近くは北陸地方の水害の記憶がまだなまなましいうちに、さらに九月二十一日の近畿(きんき)地方大風水害が突発

  • 絶対矛盾的自己同一

    西田幾多郎 一 現実の世界とは物と物との相働く世界でなければならない。現実の形は物と物との相互関係と考えられる、相働くことによって出来た結果と考えられる。しかし物が働くということは、物が自己自身を否定することでなければならない、物というものがなくなって行くことでなければならない。物と物とが相働くことによって一つの世界を形成するということは、逆に物が一つの世界の部分と考えられることでなければならない。例えば、物が空間において相働くということは、物が空間的ということでなければならない。その極、物理的空間という如きものを考えれば、物力は空間的なるものの変化とも考えられる。しかし物が何処(どこ)までも全体的一の部分として考えられるということは、働く物というものがなくなることであり、世界が静止的となることであり、現実というものがなくなることである。現実の世界は何処までも多の一でなければならない、個物

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