ジャン=ジャック・ルソー。かつて彼=わたしが育てたエミールという名の言葉。それは彼=わたしたちの観念のなかに存在する、幻の少年……。果たして彼=わたしとは誰なのか、J・Dとは誰なのか(ジャック・デリダ? サリンジャー?)、アンジェは、巨人は、塔は、船は、天使は、水は、島は、少女は、少年は、その名は──。 第8回日本SF新人賞受賞作。id:BaddieBeagleさんの、 『地下室の手記』(一人称を“俺”にしている新訳版は自棄感か増していてイケる)や『眼球譚』(こっちは生田耕作のほうがやっぱり秘教的でいい)、そしてセリーヌ、スティーヴ・エリクソン、津原泰水(の『ペニス』)、花村萬月(の『鬱』)につらなる自意識のダウンワード・スパイラルな冒険小説としての衒学的モノローグとでも言うべきか。ただ借用されるタームの量とそこから派生する世界の(内向きの)広がりはサーヴィス制神たっぷりで陰鬱なが