論創社版のエミール・ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」は七年かかって一三巻を刊行し、同時期に出版された藤原書店の「ゾラ・セレクション」の六巻などを合わせると、ようやく日本語で「叢書」の全二〇巻を読むことができるようになった。フランスにおける最終巻の『パスカル博士』の刊行は一八九三年であるから、完結後一世紀以上を経て、初めて邦訳が出揃ったことになる。近代翻訳出版史をたどってみても、多くの出版者や編集者、翻訳者や研究者が「叢書」全巻の刊行を夢見たと思われるが、『夢想』の一冊を除いて、ほとんどが大部の長編であり、翻訳の労力に加えて、莫大な制作費を必要とするために、それが実現しなかったと推測できる。 しかし二一世紀に入ったとはいえ、新訳で「叢書」全巻を初めて読めるようになったことは訳者の一人として、とてもうれしいし、日本における新たな読者の出現や、日本近代文学へのゾラの影響についての研究の深まりを