チベット人は「天に日月あり、地にダライ・ラマとパンチェン・ラマあり」という。では日月に次いでチベット高原に明るく輝く星は誰か。 それはガランランパ・プンツォク・ワンギェルである。漢語表記は「平措汪傑」、略称はプンワン。彼はこの3月30日早朝7時に北京で亡くなった。92歳だった。 この日、親しい新聞記者が北京から電話で「あなたが伝記を書いたプンワンという人が亡くなりましたよ」と知らせてくれたとき、私は全身の力が抜けた。しばらくして涙がわいてきた。悲しみはその過ぎこしかたがあまりに波乱に満ち、悲劇的であったからである(拙著『もう一つのチベット現代史』明石書店2006)。 私がプンワンとはじめて会ったとき、すでに80歳前後であったが、長身で、勇猛果敢で知られたカンパ(チベット東南高原の人)そのものだった。話し方は闊達、政治家というよりは学究、とりわけヘーゲルとエンゲルスに通じた人という印象を受け