羅紗切鋏(ラシャ切鋏)の「羅紗」はポルトガル語のRAXAを音訳したものです。羅も紗も薄い絹織物のことですが、二字を合わせた造語の羅紗という布は、絹とは関係のない「毛織物の一種で地を厚く、織目を細かく表面だけをけばだてた物」のことを言う。 昭和の戦前まで冬物服地としてなくてはならなかったラシャ地は、今ではすっかり廃れてしまったが、名前だけは使われている。洋服縫製に欠かせないラシャ切鋏の渡来した時期は分からないが明治初年説がある。しかし、文久年間(1861~1864年)に幕府が投袋(ズボンのこと)を採用したりしているところからみれば、もう少し早い時期の幕末にラシャ切鋏を携行した欧米の洋服職人が来日したと考えられる。 幕末に開業の洋服店で舶来のラシャ切鋏を使って厚手の洋服地を裁断していたと思われるが、当時のラシャ切鋏は大きくて重く、日本人の洋服職人には扱いやすい道具ではなかった。大きく重い西洋風