昆虫と人は意外なところでもつながっている。例えば、ペンを使って文字を書く。当たり前のことだが、それにはインクが必要だ。ペンとインクの歴史は古いが、今日多く利用されているインク内蔵型のペンが普及する前は、ペン先にインクをつけながら使う、いわゆるつけペンが主流だった。 そのつけペンのインクとして、古くから用いられているものに「没食子インク(もっしょくしインク、iron gall ink)」と呼ばれるインクがある。ブルー・ブラックが主な色合いのこのインクは、耐水性に優れ、製造も容易であったことから、中世ヨーロッパでは広く用いられた。現在も製造は行われており、古典インクと呼ばれ、親しまれている。実はこの没食子インクの製造には、とある昆虫が欠かせない。 その昆虫というのが、筆者が日々研究している「タマバチ」というハチだ。世界で約1400種がこれまでに見つかっているハチなのだが、ほとんどの種が体長5m