冒頭で魔女の一般的な定義を与えたが、すべてに当てはまる最大公約数的定義を示すのは困難である。ヨーロッパの歴史における魔女は複雑な背景を持つ重層的な概念となっており、多面的な魔女像が存在する。古代や中世前期での原型的魔女ないし魔法使いから、中世末以降に魔女論者たちが定式化し識字層に広まった類型的魔女像、近世・近代の民間伝承やメルヘンの中の魔女像、19世紀以降に考えられたロマンチックな魔女像や、20世紀以降の新異教主義の魔女に至るまでの、さまざまなものが魔女という言葉で括られている。 魔女の概念をなす要素のひとつに、ラテン語で「マレフィキウム」(悪行)と呼ばれた加害魔法の概念があるとされる[6]。呪術的な手段によって他者を害することは、古代ローマ時代から刑罰の対象であった。中世ヨーロッパでもこのマレフィキウムに対する考え方は存続した。 しかし中世晩期の15世紀になると、それまでの単なる悪い呪術