一 出産というものに初めて違和感を覚えたのは、私が中学生の頃でした。あなたが産まれたときです。 風が吹けば田んぼに緑の波が立ち、昼間は蝉の声が、夜はクビキリギスの声がする、そんな夏のことです。当時二十代後半だった叔母が、元気な赤ちゃんを、あなたを産み、私の家にやってきたんです。 あなたを抱く叔母と、その隣に立つ旦那さん、叔母より一回り年上の私の父、そして母。大人たちはみんな破顔していました。赤ちゃん言葉で話しかけたり、小さな手を人差し指でツンツンしたりと、幼子であるあなたをとにかく愛でていて。私の三つ下の妹も、あなたに興味津々でした。 妹は目をキラキラさせながら叔母に訊きました。 「名前はなんていうの?」 「奈々恵(ななえ)よ」 髪の少ない頭を妹がそっと撫でれば、あなたは大声を上げました。鼻水やよだれでいっぱいのしわくちゃな顔。叔母がティッシュに手を伸ばせば、母は目を細めながら言いました。