「ここで受け取る食品とパン店でいただくパンの耳が頼りです」。見るからに体調が悪そうな男性と出会った。七十三歳。杉並区のアパートから都庁前の食品配布の会場に一時間半かけて歩いて来たという。会場で測った血圧の数値が異常に高かった。ボランティアの医師から「病院で調べてほしい」と求められ、どうにもばつが悪そうな表情を浮かべていた。 暮らしぶりが気になり、都議選の投開票から一夜明けた七月五日、男性宅を訪ねた。薄暗い部屋の広さは四畳ほど。コロナの感染予防のため、手を洗おうと流しの蛇口をひねったが一滴も出ない。「一年前から水道も電気も止まっています。水は公園でくんできました」。男性が水の入ったペットボトルを私に差し出した。「七十八キロあった体重が一年で五十二キロになりましてね。身長は一七〇センチで、体は骨と皮だけです」。小さな声で話し始めた。