先日、直木賞の贈賞式があった。小説家デビューしてから一緒に本を作ってきた人たちや友人、家族、敬愛する表現者の方々が駆けつけてくれた祝福に満ちた夜で、思いだすとただただ眩(まばゆ)い。みんなの笑顔や言葉を私は一生忘れないと思う。 ただ、大きな賞というだけあって、選考会から一ケ月の間に実にいろいろなことがあった。二十年以上も連絡をとっていなかった人から馴(な)れ馴れしいメールがきたり、私が書いた個人宛(あて)の手紙を公開されたり、一度しか会ったことがない人が私の人となりを吹聴したりした。十五年も職業作家として小説を書き続けてきたのに、「直木賞」の文字で対応を変える人たちをたくさん見た。私の常識では考えられないようなことが多かったので、ひとつひとつに傷ついた。愚痴を言うと「良いことがあったんだから少しは目をつぶらなきゃ」と言われるのもつらかった。誰かに良いことがあったら、それに便乗して心ない非常