はじめに 批評家・綿野恵太の挑戦と限界 最近、人の薦めで綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社、2019年)と治部れんげ『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社、2018年)を読んだ。 治部の啓蒙書は会社の上司に薦められて読んだのだが、残念ながらそれほど面白い本ではなかった。ルミネ、資生堂、キリンビバレッジ、サントリー、宮城県、ユニ・チャームなど、近年の日本国内における「ジェンダー炎上」の事例およびその問題点が簡潔に整理されており、海外の「ジェンダー炎上」事例も何例か紹介されているため、informativeではあったが、いかんせん筆致が退屈で刺激に欠けた。綿野の話題書を副読本として、物足りなかった点、注意を要する点を指摘しておきたい。(以下、赤字は引用箇所を示す) 第一に、治部は「『女性に関する表現は男性の自分には発言資格がな