昨年7月の安倍晋三元首相暗殺、そして今年4月の岸田文雄首相暗殺未遂と、令和の日本で物騒な事件が立て続けに起こっている。 このような世情のなか、歴史社会学者の筒井清忠氏が『近代日本暗殺史』(PHP新書)を刊行した。同書で筒井氏は、明治と大正の暗殺事件を分析するとともに、日本において暗殺に同情的な文化ができた歴史的背景についても考察している。 はたして、日本の民主主義において、そのような「暗殺の文化」はいかなる影響を及ぼしているのか――。日本近代史の研究者で、北海道大学准教授の前田亮介氏が、『近代日本暗殺史』を読み解きながら、暗殺とデモクラシーの関係について考察する。 * * * 正攻法による「日本型暗殺史」の再構成 政治的要人の暗殺は、日本政治外交史でこれまで空白として残されてきたテーマである。井伊直弼が、伊藤博文が、原敬がもし暗殺されていなかったら、歴史はどのように変わっていたかという思考